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【とやまもの】表情が異なるのも手作りならでは『宇津彫刻店』の「招きねこ」をご紹介

富山県は豊富な水や自然環境に恵まれた地の利を活かし、様々な「ものづくり」の文化を育んできました。
今回は優しい質感と色合いでインテリアとしてもぴったりな、富山の伝統民芸品でもある素焼きの土人形『宇津彫刻店』の「招きねこ」をご紹介します。
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受け継ぐ技と心、とやまの工芸

「高岡銅器」「庄川挽物木地」「越中福岡の菅笠」など、富山の豊かな自然と風土、人々の暮らしの中で育まれてきた「ものづくり」の歴史。富山県では国が指定している伝統工芸品6品目のほか、「越中瀬戸焼」や「とやま土人形」といった「富山県伝統工芸品」5品目が指定されています。井波別院瑞泉寺の門前町として栄えた南砺市井波が誇る「井波彫刻」も、その歴史は約250年に及びます。寺院彫刻から神輿や曳山など祭事に関わるもの、美術品、看板に至るまで、200から300種類ものノミと彫刻刀を使い分けて掘り起こされる立体感と躍動感。長い歳月のなかで磨き上げられてきた技術は、新たな可能性を探りながら次の世代へと受け継がれていきます。

トントンと職人たちのノミを叩く音が聞こえる木彫刻の町、井波
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ノミと彫刻刀で掘り出す木彫刻の魅力

富山市婦中町に工房を構える宇津孝志さんも、そんな「井波彫刻」の美しさに魅了された一人。現在は彫刻家として木工やブロンズにおける作品の製作、獅子頭や仏像の修理なども請け負っている宇津さんですが、かつては富山から離れた土地でエンジニアとしての道を歩み始めていたそう。「新聞記事で初めて「井波彫刻」の記事を見たとき、“これは凄い”と感動した」と、当時の想いを振り返ります。その強い感動をきっかけに富山へと戻り、そのまま「井波彫刻」の彫刻師である加茂藩山氏のもとへ入門。7年間の修行を積み、自身の出身地である婦中町へと戻り作品を作り続けています。

若い頃より迷いなくノミが進められるという彫刻家・宇津孝志さん
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個性あふれる造形世界に触れる

「井波彫刻」をきっかけに彫刻技術を学んだ宇津さんの作品は多岐に渡り、日展作家として各種展覧会にも数多く出展してきました。材質も木だけにとどまらず、ブロンズや土、プラスチックなども。なかには宇津さんの背丈を超えるほどの大きさのものあるそうで、丸太の状態からチェーンソーを使って彫り進めていくそうです。「もともとデザインするのが好き」と話す宇津さんの工房には作品だけではなく、自身で描いたデッサン画も。細かな部分はノミを使いながら頭の中の理想に近づけていきますが、材質を感じながら作業していると途中で完成像が変わってしまうこともあるのだとか。工房はお店としても開いているので、さまざまな作品との出会いの場にもなっています。

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時代とともに、暮らしとともに

伝統的な文化であっても、時代の変化による影響は少なくありません。富山では昔から男の子が生まれると「井波彫刻」の「天神様」を飾る風習があります。「天神様」とは学問の神様である菅原道真公のことで、母方の実家から贈られ床の間に飾られます。しかし近年、住宅事情も大きく変わり、立派な「天神様」を飾ることが難しいと感じる人たちが増えてきているといいます。「時代に合わせてシフトチェンジすることが求められる」と、宇津さん。「手にとれて、もっと身近に飾れるものを」と模索した結果、木製ではなくブロンズ製に挑戦。手のひらサイズで専用の箱に仕舞うこともできるので、県外で暮らす家族に気軽に送ることができるのが嬉しい。

持ち運びやすく、より気軽に飾れるようになった「天神様」
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「つくる」ことを繋いでいく

工房で「天神様」と並んで目をひくのが、愛らしい表情を向ける土人形の「招きねこ」達です。土人形は江戸時代から伝わる富山の伝統工芸品の一つ。表情はもちろん、1匹1匹丁寧な手作業で作られていることがわかる風合いは、インテリアとしても空間に馴染みやすい。今まで積み上げてきたことだけではなく、新しい素材、新しい手法に果敢に挑み続ける姿勢は、「絶えず新しいことにチャレンジしていきたい」と笑顔で話してくれた言葉の通り。最近では講師としても活動し、「つくる」ことから「伝える」ことにも意識を向けています。「若い人たちや初めての人たちにも託せるように」と話す宇津さんですが、まだまだ新しいアイデアが尽きることはありません。

柔らかく愛嬌のある表情は工房に遊びに来る猫を思い浮かべながら

「つくる」から「伝える」「提案する」という新しいステージへ
宇津彫刻店
富山市の彫刻家・宇津孝志氏の工房。日展作家として作家活動のほか、木工、ブロンズ制作や獅子頭、仏像修理なども請け負う。工房では天神様、招きねこ、お雛様などの作品も展示しており気軽に立ち寄ることができる。

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